地方探訪 ―地方から世界へ 新しいビジネスの形を模索する―

地方の高齢化・過疎化が問題視されて久しいが、一方でネットの急激な普及により、仕事場が都心にある必要性を感じない人々も増えてきている。今、地方でどのような人々や産業が動き出しているのか。その現状をレポートする。(不定期更新)

【山形・ドキュメンタリー映画祭】2023.10
 
2023年10月、山形市で2年に1度開催される山形国際ドキュメンタリー映画祭にはじめて足を運んだ。この映画祭は1989年に始まった歴史のある映画祭で、ドキュメンタリー映画好きには広く知られている。 初日は、朝から郊外にあるライブラリーへ出向く。ネットでバスの時間を調べ、1時間に1本しかない便に乗って約20分で山形ビッグウイングに到着。ライブラリーには映画関連の本もあり、時間があれば1日過ごしたい気持ちになる。ライブラリーでは事前に確認しておいた過去作品『レイムンド』を鑑賞。中南米ウォッチャーとしては、わざわざ足を運んで見る価値のある作品だった。
 山形駅には昼過ぎに戻る予定があり、タクシーで羽前千歳駅へ。ここは住宅地の中にある無人駅で、近辺には店もなく…。山形駅からは比較的近い駅なのだが、車社会の地方都市ならではの光景だ。羽前千歳駅にとまる電車も数は少ないのだが、運よくすぐ電車が来る。
 初日の宿は市内のホテルが空いていなかったため蔵王へ。山形駅からはバスで約40分ほどなので足を伸ばしやすい。紅葉シーズンでもなく悪天候だったため、宿でゆっくりと過ごした。蔵王に来るのは学生時代のスキー合宿以来だったので懐かしくなる。 宿泊客は多かったが街はほとんど誰も歩いていない。歴史のある温泉街のわりには、寂びれている感が否めない。 宿の従業員に、スキー合宿で泊まったことがある、と話したところ、「昔は雑魚寝ができる大広間もあったんですが、改装したんです」と、話してくれた。 有名な温泉街も時代のニーズに合わせて、ターゲットを変えていくことが求められているのだろう。 高級宿とは言えないが、様々な企業努力が感じられる宿だった。
 山形 二日目は、土砂降りの蔵王を降り、山形市内へ戻る。市内は晴れていたのだが、雨が降りそうなので、遠出はせずに、霞城公園で散歩(写真)。 ウォーキングしやすい広さなのと、駅から徒歩圏内なのがよい。
 映画祭会場の山形中央公民館ホールへ移動。雨の中、山形駅から徒歩で20分ほどかかるため、100円の市内循環バスを利用。 チケットは前日、西口駅前の映画館で買った前売り券を引き換えることなく入場出来た。 国際映画祭とはいっても満席になることはないようで、上映直前に駆けつけても悠々、席に着くことができる。 このあたりは地方開催のマニア向け映画祭ならでは。
 ここでは、チリ映画「ある映画のための覚書」とコロンビア映画「アンヘル69」を鑑賞する。「ある映画のための覚書」のアグエロ監督は、ドキュメンタリー界の大御所、かたや「アンヘル69」のモントーヤ監督は新人。作風も年齢もまったく違うのだが、どちらの作品もドキュメンタリーなのかフィクションなのか判断がわかれる作品だった。アグエロ監督は上映後のQAで「ドキュメンタリーは自由でいい」と述べていた。写真や動画、証言をつないでいくのがドキュメンタリーの王道なのだろうが、様々な構成で観客側をワクワクさせ、いい意味で観客を裏切る作品が増えているのかもしれない。
 もっと映画祭を楽しみたかったのだが、土曜日の宿がまったく予約できず、とれたとしても大幅に予算オーバーになるため、夜の新幹線で帰途につく。 地方開催のイベントは宿の確保が課題だ。多少の料金アップは仕方ないのだが、県外の客にもやさしい料金で、イベント期間だけ宿泊できるような民宿があればいいのに、と感じた。
 ライブラリーはいつでも利用可能なので、次回は、映画祭と時期をずらして訪れてみたい(その際には車のレンタルも要考慮)。


【群馬・中之条ビエンナーレ】2023.9
 
中之条ビエンナーレ   群馬県・中之条で開催された国際芸術祭、第9回中之条ビエンナーレを訪れた。日本の里山を会場にした国際芸術祭は、今まで瀬戸内、越後妻有、茨城県北などに参加しているのだが、中之条ビエンナーレはまったくノーチェックで、今回が初めての参加となった。瀬戸内や越後妻有とは違い、若手の芸術家たちが、中之条で暮らしながらアート作品を仕上げているとのこと。開催は1カ月のみということもあり、商業化されていない手作り感が親しみやすい。値段も1500円とお手頃だ。
 上野発10時の特急で中之条まで行き、初日は、駅から徒歩圏内のアートを見て回る。9月だというのに真夏並みの暑さだったため、歩いて回るのは少々身体にこたえる。印象に残ったのは、旧廣盛酒造の展示だ。酒造りをしていた工場をそのまま使っているため、年季の入った大きなタンクなどが残っていて、その中に、様々なアート作品が展示されている。見るだけでなく、触ったり、自由に音を出せるアートもあって楽しめた。
 午後からはレンタカーを借りて、四万温泉にある会場へ移動する。四万温泉までは30分ほどで、道も思ったより狭くなく、急な山道も少ないため、慣れないレンタカーでもさほどストレスなく運転ができた。 四万温泉のメイン会場は旧第三小学校。体育館に大きな幕をはったアートが印象に残る。 高台にある旧第三小学校から見える山の風景にも癒された。

中之条ビエンナーレ 2日目。四万温泉に1泊した後、車で伊参地区へ移動する。2日目も真夏並みの暑さだ。伊参スタジオは、小栗康平監督の映画『眠る男』の撮影場所だったそうで、ちょっとした映画の博物館になっていた(写真)。『眠る男』の台本やセットも飾られている。伊参スタジオ映画祭というイベントも開催されているようだ。地方ならではの知る人ぞ知る、手作り映画祭に興味を持った。群馬といえば高崎映画祭が有名だが、この里山の映画祭もいつか訪れてみたくなった。
 伊参地区で見逃せないのが旧五反田学校だ(写真)。 中之条ビエンナーレ 明治42年(1909年)に当時の最高技術をもって建築されたとのこと。歴史を感じさせる建物と、現代アートのコラボが印象に残った。
 その後、あまりにも暑くて熱中症寸前だったため、冷房の聞いた中之条ガーデンズのカフェで涼む。9月はまだまだ暑い日が多いため、野外の芸術祭は、春か秋のほうが楽しめるだろう。
 午後からは、山の上にある庭園まで足を伸ばすが、ところどころ道が悪く、運転には神経を使う。庭園に着くまで1時間ほどかかってしまう。見晴らしはいいのだが、1つのアートを見るためだけに、悪道を行くのはきつく感じた。
 同じ道を戻るのが嫌だったので、遠回りをして太子方面に出てから、中之条まで戻る。距離はかなり遠くなるが、道がいいので苦痛なく運転ができた。
 小さな芸術祭ではあるが、年々観光客が増えていて、とくに週末は賑わっているとのこと。駅前の案内が少なかったり、レンタカー店が駅近くにない、食事の場所が少ないなど、不便さは感じたが、それも田舎の良さだと割り切れば楽しめる。何よりも群馬には質の良い温泉がたくさんあるのがいい。不便ではあるが、首都圏からはさほど遠くないので、小旅行にぴったりだと感じた。次回は、別の温泉地を拠点に回ってみたい。


【九州・別府】2023.5
 
oizumi   2023年5月、成田からLCCを使って別府を訪れた。コロナ感染症が5類に移行したことも一因なのか、早朝にも関わらず、外国人、日本人ともに空港利用者は多いと感じた。しばらく成田空港を利用してこなかったのだが、今回、初めて第3ターミナルを利用。第2ターミナルからの歩いての移動は20分程度かかった。
 大分空港には飛行機の出発遅延で約1時間遅れて到着した。町までの足が心配になったが、空港バスは到着の遅れに合わせて出発。地方空港は便数が少ないため使い勝手は悪いイメージだが、到着時刻に合わせたバスの発着はありがたい。
 別府ではバスで20分程度の鉄輪(かんなわ)に移動。鉄輪行きのバスの便はかなり多いので、観光客も気軽に利用ができる。さらに別のバスに乗り換えて赤い温泉が湧き出る「血の池地獄」と、数分おきに熱湯が吹き上げる間欠泉「竜巻地獄」を見に行く。血の池地獄のおどろおどろしい色には驚いたが、思いのほか小さい(写真)。竜巻地獄も、安全のためということで、空高く吹き上げないように途中で噴射がさえぎられていた。入場料は1地獄に付き450円。共通観覧券を買うと2200円で7つ見れるとのこと。価格的にはコスパが悪いというのが正直な感想だ。ただし大分は旅行支援クーポン2000円を各宿で配っていたため、クーポンを使えばお得感はあるだろう。
 鉄輪では「鬼石坊主地獄」の隣にある「鬼石の湯」の露天風呂に入ってみた。温泉の色は無色で、泉質はナトリウム塩化物泉。メタケイ酸たっぷりの弱酸性塩化物泉で保湿効果に優れているとのこと。3階のヒノキ風呂からは緑が見え、鳥の声が聞こえた。料金も620円と手頃。別府は、すぐ近くの温泉でも湯の質が違うので、いろいろ入って比べることを勧められた。
oizumi  2日目。駅レンタカーを借りにいくが、予約が一杯で空きがないと断られる。トヨタレンタカーを紹介されるが、こちらも予約が一杯。10時からなら空きがある、ということで、6時間8,000円(保険フル付)で予約する。街が観光客で溢れているわけではないのだが、天気のいい新緑の季節ということもあり、車でドライブする観光客は多いのだろう。
 湯布院まではカーブ続きの山道だったが、狭霧台展望台付近は見晴らしもよいので、運転の小休憩には最適だ(写真)。ただし駐車場が小さいので週末などは車が止められない可能性もある。
 さらに山道を走り「道の駅ゆふいん」へ。こちらも思ったより小さな道の駅だった。写真で見た広々とした長者原(ちょうじゃばる)を目指し、やまなみハイウェイをドライブする。 予想以上にカーブが続き、休憩場所も見当たらない。疲れを覚えはじめたところで景色が一変し、視界が開ける。 oizumi
 長者原の大パノラマは圧巻だ。ラムサール条約で保護すべき湿地として登録された「タデ原湿原」の木道を散歩してみる(写真)。近くに観光牧場などもあるのでファミリーで楽しむこともできるだろう。別府からタデ原湿原までは、休憩も入れて片道2時間程度だった。温泉も多い地域なので、時間に余裕のある人は、有名な黒川温泉や湯布院で宿をとり、山の景色を楽しむと良いかもしれない。
 時間がなければ、別府に戻る途中にある、風情のある「山のホテル夢想園」などで、日帰り入浴するのもいいだろう。ほかにも千円以内で日帰り入浴できる温泉が数か所あるようだ。

 2日目の晩は、別府駅前の新しい地域活性化ホテル『アマネク別府ゆらり』を利用してみた。駅前の殺風景な場所にあるのだが、屋上14階には景色の良い温水プールとジャグジー、サウナがある。風が強いのが難点だが広々とした空、海、山の景観を楽しめる(写真)。 oizumi
このホテルでは、外国人観光客も多く、とくに中国系の団体観光客が目立っていた。1階の広々としたラウンジでは、午後からコーヒーやジュースをセルフサービスで飲み放題にするなど、ありがたいサービスもあった。
 このホテルの特徴の一つが、周辺の連携飲食店で食事をするとホテルの部屋のカードキーで部屋付け払いが出来る「HEYAZUKE」だ。2021年12月にサービスを開始。宿泊客が街中の飲食店を利用しやすくするのが狙いということだ。ホテルだけが観光客を囲いこむのではなく地域全体を活性化するという意味では、とても良いアイデアだとは思う。だが現実は、別府の夜の街はシャッターがおりているところも多くあり、いろいろな飲食店を選び放題という都会のイメージとはかなり違った。
 今回、夜8時前に食事に出かけたのだが、小さい店が多いせいか、平日にもかかわらず満席で、予約客のみと焼き鳥屋から断られ、鶏天の店は席が空いていても店員が少なく、接客が追い付いていない。「オーダーストップが近いから…」と、やんわり断られそうになったが、せっかくの別府でコンビニ弁当もわびしいので、店の入り口でしばらく待ち、入れてもらう。待っただけあって、郷土料理のりゅうきゅう(地元の魚を、醤油、酒、みりん、ごま、しょうで和えたもの)など、美味しくいただけた。
 観光地では、コロナ禍の間に人を減らしたため、観光客が戻ってきた今も従業員が足りていない、という状況は耳にしていたが、なるほどこういうことか。「ゴールデンウィークが過ぎると、通常、観光客は減るのだが、今年はずっと客が多い」と、店主が困り気味に話してくれた。客が入るのは嬉しいのだがキャパをオーバーしているのも考えものである。従業員を増やすためには、やはり観光地の時給を上げていくしかないのだろうが、時給以外にも、地方で働きたくなる魅力のアピールも必要になるのかもしれない。 PR上手で知られる別府でさえ人手不足なのだから、まだまだ日本の地方観光都市には課題が多いと感じた。 例えば、地方に移住し、昼間は都会の企業でフルリモートで働き、夜や空いた時間に、飲食店でバイトするといった働き方もできるかもしれない。 この課題をウィンウィンで解決できるようなスタートアップが生まれることを期待したい。



【群馬・大泉町 ブラジルタウン】2023.4
 北関東のブラジルタウンとして知られる群馬県大泉町を訪ねた。人口わずか4万2000人ほどの町民のうち、約20%が外国人だという。1990年代には、中南米から多くの日系人が労働者として移住した。いわゆるデカセギである。 この付近には大企業の工場が集積していたため、 働き手として町をあげて多くの日系人を受け入れていたのだ。
今の大泉町のブラジル人の人口は4635人(令和5年2月末現在)。外国人比率では、2位のペルー人(1081人)を引き離して半数以上を占めている。最近は、ネパールなどアジアからの移民も増えているようで、街には南米料理以外にも、カレーやタイ料理の店も並んでいた。
oizumi  平日の昼間に、シュラスコ店でランチをしたが、スタッフも客もすべてブラジル人で、大きなスクリーンではブラジルのポップス歌手のライブが流れていた。 一瞬、サンパウロにいるのか、と錯覚したほどだ。もちろんスタッフは日本語を流暢に話したし、メニューも日本語付きだったが、日本人一人の客は珍しいのか、ポルトガル語で挨拶しただけで驚かれてしまった。 行く途中、自転車で走る初老のご婦人に店までの道を尋ねたのだが、ブラジル人ではなかったようで、「知らない」とそっけなくされてしまった。
oizumi 一部のメディアでは、南米色豊かな町で、日本人との共存がうまくいっているようにも言われていたが、実際に訪れてみると、ポルトガル語で書かれた、様々な決めごとに対する注意書きが目についた。(写真は監視カメラで監視中と書かれた看板)
 浜松を訪れた時にも感じたのだが、外国人が多く暮らす日本の町は、日本人と外国人の交わりが少なく、食べる物、行く店、遊ぶ場所も、分かれているように思える。
観光客に対しては「おもてなし」上手な日本人だが、移民となると話は別。生活習慣や食べ物、言葉など、多くの違いをお互いに受け入れて共存していくことは課題も多いのだろう。  北関東の観光地「あしかがフラワーパーク」からも近いので、観光の帰りにでも寄り道して、観光用ではないブラジルのリアルな文化などを、味わってみてはいかがだろう。


【新潟・越後妻有 大地の芸術祭】2022.10

 地域の活性化を目指して始まったアートプロジェクトは新潟や瀬戸内、能登など各地で開催され、国内外から多くの観光客を呼び込んでいる。とくに瀬戸内の島々は海外での評価が高まり、2019年にはニューヨーク・タイムズが「行くべき57か所」の7位に選んだことから、インバウンド(外国人観光客)に人気となった。
 コロナ禍ではあるが、観光客も少しずつ戻ってきた2022年秋、アートプロジェクトの原点である新潟県の越後妻有を数十年ぶりに歩いて見た。

 日曜日、午後から豪雨予報が出ていたため、早めに新幹線で現地入りする。数十年ぶりの越後湯沢駅だったが、懐かしさよりも充実した駅構内の店舗の多さに圧倒される。まずはローカル線の「ほくほく線」に乗って十日町を目指す。 越後湯沢はスキーや合宿などで、数えきれないほど訪れているのだが、ほとんど車移動であったため初のローカル線だ。 便数が少ない不便さは、地方ならでは。せっかくなので、ゆっくりとした時間の流れを楽しむことにした。芸術祭開催中の日曜なのでさすがに乗客は多かったが、平日の利用者は学生と高齢者が中心なのだろう。芸術祭目当てと思われる客は、やはりアクティブ中高年が中心のようだ。アート好きな男性の一人旅も意外と多かった。途中の美佐島駅は無人の地下トンネルにあり、薄明りしかない不気味な駅だ。いったい誰のための駅なのか。でも鉄道オタクにはレアな感じがたまらないのかもしれない。
 十日町駅はこじんまりとした田舎駅だ。 ECHIGO 越後妻有里山現代美術館まで、ゆっくりと歩いてみたのだが、日曜にもかかわらず、人の姿はほとんどない。車移動の多い地元の人たちは、休日は駐車場の広いショッピングモールなどに行ってしまうのだろう。
 美術館に着くとさすがに人が多く、隣に併設した道の駅もにぎわっていた。地域活性化のためのアートプロジェクトではあるのだが、新潟の場合、アート作品は車でないと回れない場所に点在している。そのため、観光客が町の小さな食堂や店舗などを訪れるのは物理的に難しい。芸術祭を商店街の賑わいにつなげるのは無理があると感じた。
 美術館ではウクライナ出身の作家イリヤ&エミリア・カバコフの「16本のロープ」などを鑑賞(写真)。16本のロープに紙切れや木片など約100個のメモが付けられた「ゴミ」がぶら下がり、メモには自然、子供、健康、家事、愛など、ソ連時代の人々のなにげない会話が書かれている。二人はほかに、世界の平和的な対話を促す意図を込めた「手をたずさえる塔」という新作も発表している。

 翌日は、マ・ヤンソン/MAD アーキテクツが「Tunnel of Light」として作品化し話題を呼んでいる清津峡渓谷トンネルを見学。良い移動手段がないので車を借りることにした。前日に貰った旅行支援3千円クーポンをレンタカー代に使えたのはありがたかったのだが、このクーポンは正直、買いたいものがない観光客には有難迷惑なサービスだ。車で来て温泉にだけ入ってゆっくりしたい観光客が「もったいないから」と、ホテルの売店で欲しくもない土産物を買うはめになるという話も耳にした。この支援策は検討の余地ありだ。
 ECHIGO 清津峡渓谷トンネルまでは、さほど難しい道もなく、快適なドライブコース。あいにくの曇天で雨も降ってきてしまったのだが、天気さえよければ絶好の観光スポットだ。トンネルの中に鏡や水でアート作品を作り、外の景色を映し出すことで絶景となる、このアイデアにはアッパレである(写真)。難しい仕組みではなく、シンプルなアイデアで、ここまでできるのが素晴らしい。やはりアーティストというのは、特別な能力をもっているのだろう。
 その他、能舞台の野外アートや棚田も見どころだが、こちらは数十年前に一度見ているので割愛した。芸術祭をバスで回るツアーもあるので、最初はツアー参加もいいかもしれない。ただし、以前バスツアーに参加した友人からは「外国人観光客が時間を守らないから、日本人がいつも待たされていた」という感想も。ツアーあるあるな話である。自分のペースで周りたい人は、やはり車を借りるのがベストだろう。
 瀬戸内、新潟は大規模プロジェクトだが、今後は小規模のアートプロジェクトにもいろいろ参加して、地域差をリサーチしていきたい。



【金沢・白川郷】2022.5
 日本でコロナ感染が拡大してから2年半が過ぎた。
 京都で日本の感染者第一号が出た直前の2020年1月に、外国人観光客(インバウンド)のガイドのために京都を訪れた時には、観光シーズンでないにも関わらず、京都の町はインバウンドで溢れ、活気づいていた。一方で、市営バスが観光客ですし詰めになり、車を持たない高齢者の生活を妨げていたことが気になったのを覚えている。
 インバウンドが好んで訪れていた観光地は、コロナを経てどのように様変わりしているのか。2022年5月、ウィズコロナで人々が少しずつ動き始めた地方の観光地、金沢と白川郷を訪れた。
 
 金沢に行くのは約30年ぶりだ。もちろん当時は新幹線もなく夜行列車での長旅だった。 今では都心から約3時間半。便利になったものである。
KANAZAWA  金沢といえば歴史とアートの町。金沢21世紀美術館は平日にも関わらず、多くの人が集まり、人気のスイミングプール(レアンドロ・エルリッヒ作)は予約制になっていた。シンプルだが不思議な気持ちを味わえる現代アートは、子どもだけでなく大人も好奇心をくすぐられる。
 美術館近くの小さなギャラリーで行われていた「KAMU KANAZAWA」という企画展は、歩ける範囲に現代アート作品が点在しており、街中を歩き回って楽しめるようになっている。観光地化されていない商店街を歩くので、地元の店でお茶を飲んだり、小物を買うことができる。この企画は商店街の活性化にもつながる。摩訶不思議な階段アート(レアンドロ・エルリッヒ作=写真)や、暗闇に浮かぶ静止画のようなものが徐々に動いていく渡辺豪の作品など、人の視覚を刺激する作品が印象に残った。
 町並みは綺麗に整備され、散歩するだけでも楽しめるのだが、香林坊付近は空き店舗が目立ったのは、やはりコロナの影響だろう。片町商店街には、星野リゾートのカフェもあったが、店は閉まっていた。一方で、ホテルは宿泊客が多かったのは、県民割りや近隣割の影響もあるのだろう。平日にも関わらず、若い家族連れが多かった。

白川郷
 インバウンドに大人気のユネスコ世界遺産、白川郷も訪れてみた。こちらは学生時代に一度行こうと試みたのだが、山を越え谷を越えないとたどり着けないことがわかり、諦めた覚えがある。今では金沢から高速バスで約1時間半。2008年に全線開通したという東海北陸自動車道は、さすがにトンネルは多いが、軽自動車でも気軽に行けるシンプルな道だ。かつて訪れることをを挫折した身としては、あまりにも簡単に行けるので拍子抜けした。
 sirakawagou 金沢からのバスの本数は、インバウンドがいないためか、午前の便が朝8時台の1本しかないにも関わらず、乗客はほとんどいない。人が少ないほうが、観光客の立場では、ゆっくり見られてうれしいのだが、観光業で暮らしている人々にとって、ここまで減ったのはやはり痛手だろう。白川郷は、観光地化されてはいたが、人々が静かに農業を営む姿と、新緑、歴史のある合掌造りが一体となって絵画のようだった。インバウンドに人気が出たのも納得の美しさだ。逆に、昭和のかやぶき屋根や田舎の風景を知っている日本の後期高齢者世代にとっては、昔を懐かしく思う程度で、さほど感動はないかもしれない。また、気軽に行けるようになったことで、白川郷に対する神秘さが薄れ、魅力を感じられない人もいるかもしれない。観光業は、何を重んじ、誰をターゲットにするかなど、考えなければならないことがたくさんある。単なる景色の美しさや珍しさ、楽しさだけでは成功できない難しさがあると感じた。
 

【石垣島】2017.4
2017年4月、東京では桜が満開の季節に石垣島を訪れた。空港を降りると初夏のような日差しが照りつけており、東京から遠くに来たことを肌で感じる。
石垣島の商店街は半日もあれば歩いて回れる程度の小規模だが、昔ながらの市場や土産物屋に混ざって、若い移住者が開いたオシャレな店舗も見受けられた。その代表格である辺銀食堂は食べるラー油で数年前、一世を風靡した。WEBサイトも充実しており、今でもネットで情報を入手する若い観光客の心をつかんでいる。店内は狭く休日は予約なしでは入店できないようだが、平日のランチ時は中国や台湾からの若い客でにぎわっていた。一方で、ラー油購入時の注意点がサイトに詳細に書かれているのも気になった。人気店ならではの苦労も垣間見える。明るくオープンマインドなイメージの沖縄だが、小さな島ならではのご近所づき合いの難しさがあるのかもしれない。訪れる側にとって少々息苦しさも感じた。

また、まだ全国区ではないものの塩の専門店は目を引いた。「塩屋」石垣店に並んだ塩の種類の多さには驚かされる。料理に欠かせない調味料だけに、味へのこだわりの強い美食家たちやアジアの富裕層等へ、一時のブームではない息の長い人気商品として期待ができるだろう。
石垣の景勝地、川平湾に向かう海沿いには塩の工場「石垣の塩」があり見学もできる。小さな工房ではあるが、ガイドの案内も丁寧で、海水のろ過作業から選別、にがりの話まで詳しく教えてくれた。

沖縄といえばトロピカルフルーツというイメージがあるが、常夏ではないため生のマンゴーは夏にならないと食べられない。4月はようやくパイナップルの出荷が始まったころだったが、パッションフルーツジュースの製造元「川平ファーム」本店にも足を運んでみた。
ブラジルではマラクジャと呼ばれ、ジュースの定番フルーツとして人気がある。ブラジルでは黄色い果実だったが、石垣では紫の果実。種類も様々あるようだ。
川平ファームではフルーツドリンクの質にこだわりを持っているが、値段の高さが消費の足かせとなっていることも否めない。店主は「日本は品質の規制が厳しく果汁100%表示のハードルが高い。品質表示に厳しいお役所と、安さを求める消費者の間で苦しんでいる」と胸の内を語ってくれた。
短い滞在ではあったが、石垣や西表の観光産業は、島が好きな元気な移住者に支えられている感じを抱いた。古いものと新しいもの。それぞれの立場や言い分が違うため、時には対立することもあるだろう。だが対話を続けることで解決策も見つかり、よりよいアイデアも生まれるかもしれない。地方創生の可能性はまだまだ広がっていると感じた。

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