地方探訪 ―地方から世界へ 新しいビジネスの形を模索する―
地方の高齢化・過疎化が問題視されて久しいが、一方でネットの急激な普及により、仕事場が都心にある必要性を感じない人々も増えてきている。今、地方でどのような人々や産業が動き出しているのか。その現状をレポートする。(不定期更新)【群馬・大泉町 ブラジルタウン】2023.4
北関東のブラジルタウンとして知られる群馬県大泉町を訪ねた。人口わずか4万2000人ほどの町民のうち、約20%が外国人だという。1990年代には、中南米から多くの日系人が労働者として移住した。いわゆるデカセギである。 この付近には大企業の工場が集積していたため、 働き手として町をあげて多くの日系人を受け入れていたのだ。
今の大泉町のブラジル人の人口は4635人(令和5年2月末現在)。外国人比率では、2位のペルー人(1081人)を引き離して半数以上を占めている。最近は、ネパールなどアジアからの移民も増えているようで、街には南米料理以外にも、カレーやタイ料理の店も並んでいた。


浜松を訪れた時にも感じたのだが、外国人が多く暮らす日本の町は、日本人と外国人の交わりが少なく、食べる物、行く店、遊ぶ場所も、分かれているように思える。
観光客に対しては「おもてなし」上手な日本人だが、移民となると話は別。生活習慣や食べ物、言葉など、多くの違いをお互いに受け入れて共存していくことは課題も多いのだろう。 北関東の観光地「あしかがフラワーパーク」からも近いので、観光の帰りにでも寄り道して、観光用ではないブラジルのリアルな文化などを、味わってみてはいかがだろう。
【新潟・越後妻有 大地の芸術祭】2022.10
地域の活性化を目指して始まったアートプロジェクトは新潟や瀬戸内、能登など各地で開催され、国内外から多くの観光客を呼び込んでいる。とくに瀬戸内の島々は海外での評価が高まり、2019年にはニューヨーク・タイムズが「行くべき57か所」の7位に選んだことから、インバウンド(外国人観光客)に人気となった。
コロナ禍ではあるが、観光客も少しずつ戻ってきた2022年秋、アートプロジェクトの原点である新潟県の越後妻有を数十年ぶりに歩いて見た。
日曜日、午後から豪雨予報が出ていたため、早めに新幹線で現地入りする。数十年ぶりの越後湯沢駅だったが、懐かしさよりも充実した駅構内の店舗の多さに圧倒される。まずはローカル線の「ほくほく線」に乗って十日町を目指す。 越後湯沢はスキーや合宿などで、数えきれないほど訪れているのだが、ほとんど車移動であったため初のローカル線だ。 便数が少ない不便さは、地方ならでは。せっかくなので、ゆっくりとした時間の流れを楽しむことにした。芸術祭開催中の日曜なのでさすがに乗客は多かったが、平日の利用者は学生と高齢者が中心なのだろう。芸術祭目当てと思われる客は、やはりアクティブ中高年が中心のようだ。アート好きな男性の一人旅も意外と多かった。途中の美佐島駅は無人の地下トンネルにあり、薄明りしかない不気味な駅だ。いったい誰のための駅なのか。でも鉄道オタクにはレアな感じがたまらないのかもしれない。
十日町駅はこじんまりとした田舎駅だ。
美術館に着くとさすがに人が多く、隣に併設した道の駅もにぎわっていた。地域活性化のためのアートプロジェクトではあるのだが、新潟の場合、アート作品は車でないと回れない場所に点在している。そのため、観光客が町の小さな食堂や店舗などを訪れるのは物理的に難しい。芸術祭を商店街の賑わいにつなげるのは無理があると感じた。
美術館ではウクライナ出身の作家イリヤ&エミリア・カバコフの「16本のロープ」などを鑑賞(写真)。16本のロープに紙切れや木片など約100個のメモが付けられた「ゴミ」がぶら下がり、メモには自然、子供、健康、家事、愛など、ソ連時代の人々のなにげない会話が書かれている。二人はほかに、世界の平和的な対話を促す意図を込めた「手をたずさえる塔」という新作も発表している。
翌日は、マ・ヤンソン/MAD アーキテクツが「Tunnel of Light」として作品化し話題を呼んでいる清津峡渓谷トンネルを見学。良い移動手段がないので車を借りることにした。前日に貰った旅行支援3千円クーポンをレンタカー代に使えたのはありがたかったのだが、このクーポンは正直、買いたいものがない観光客には有難迷惑なサービスだ。車で来て温泉にだけ入ってゆっくりしたい観光客が「もったいないから」と、ホテルの売店で欲しくもない土産物を買うはめになるという話も耳にした。この支援策は検討の余地ありだ。
その他、能舞台の野外アートや棚田も見どころだが、こちらは数十年前に一度見ているので割愛した。芸術祭をバスで回るツアーもあるので、最初はツアー参加もいいかもしれない。ただし、以前バスツアーに参加した友人からは「外国人観光客が時間を守らないから、日本人がいつも待たされていた」という感想も。ツアーあるあるな話である。自分のペースで周りたい人は、やはり車を借りるのがベストだろう。
瀬戸内、新潟は大規模プロジェクトだが、今後は小規模のアートプロジェクトにもいろいろ参加して、地域差をリサーチしていきたい。
【金沢・白川郷】2022.5
日本でコロナ感染が拡大してから2年半が過ぎた。
京都で日本の感染者第一号が出た直前の2020年1月に、外国人観光客(インバウンド)のガイドのために京都を訪れた時には、観光シーズンでないにも関わらず、京都の町はインバウンドで溢れ、活気づいていた。一方で、市営バスが観光客ですし詰めになり、車を持たない高齢者の生活を妨げていたことが気になったのを覚えている。
インバウンドが好んで訪れていた観光地は、コロナを経てどのように様変わりしているのか。2022年5月、ウィズコロナで人々が少しずつ動き始めた地方の観光地、金沢と白川郷を訪れた。
金沢に行くのは約30年ぶりだ。もちろん当時は新幹線もなく夜行列車での長旅だった。 今では都心から約3時間半。便利になったものである。
美術館近くの小さなギャラリーで行われていた「KAMU KANAZAWA」という企画展は、歩ける範囲に現代アート作品が点在しており、街中を歩き回って楽しめるようになっている。観光地化されていない商店街を歩くので、地元の店でお茶を飲んだり、小物を買うことができる。この企画は商店街の活性化にもつながる。摩訶不思議な階段アート(レアンドロ・エルリッヒ作=写真)や、暗闇に浮かぶ静止画のようなものが徐々に動いていく渡辺豪の作品など、人の視覚を刺激する作品が印象に残った。
町並みは綺麗に整備され、散歩するだけでも楽しめるのだが、香林坊付近は空き店舗が目立ったのは、やはりコロナの影響だろう。片町商店街には、星野リゾートのカフェもあったが、店は閉まっていた。一方で、ホテルは宿泊客が多かったのは、県民割りや近隣割の影響もあるのだろう。平日にも関わらず、若い家族連れが多かった。
白川郷
インバウンドに大人気のユネスコ世界遺産、白川郷も訪れてみた。こちらは学生時代に一度行こうと試みたのだが、山を越え谷を越えないとたどり着けないことがわかり、諦めた覚えがある。今では金沢から高速バスで約1時間半。2008年に全線開通したという東海北陸自動車道は、さすがにトンネルは多いが、軽自動車でも気軽に行けるシンプルな道だ。かつて訪れることをを挫折した身としては、あまりにも簡単に行けるので拍子抜けした。
【石垣島】2017.4
2017年4月、東京では桜が満開の季節に石垣島を訪れた。空港を降りると初夏のような日差しが照りつけており、東京から遠くに来たことを肌で感じる。
石垣島の商店街は半日もあれば歩いて回れる程度の小規模だが、昔ながらの市場や土産物屋に混ざって、若い移住者が開いたオシャレな店舗も見受けられた。その代表格である辺銀食堂は食べるラー油で数年前、一世を風靡した。WEBサイトも充実しており、今でもネットで情報を入手する若い観光客の心をつかんでいる。店内は狭く休日は予約なしでは入店できないようだが、平日のランチ時は中国や台湾からの若い客でにぎわっていた。一方で、ラー油購入時の注意点がサイトに詳細に書かれているのも気になった。人気店ならではの苦労も垣間見える。明るくオープンマインドなイメージの沖縄だが、小さな島ならではのご近所づき合いの難しさがあるのかもしれない。訪れる側にとって少々息苦しさも感じた。

石垣の景勝地、川平湾に向かう海沿いには塩の工場「石垣の塩」があり見学もできる。小さな工房ではあるが、ガイドの案内も丁寧で、海水のろ過作業から選別、にがりの話まで詳しく教えてくれた。
沖縄といえばトロピカルフルーツというイメージがあるが、常夏ではないため生のマンゴーは夏にならないと食べられない。4月はようやくパイナップルの出荷が始まったころだったが、パッションフルーツジュースの製造元「川平ファーム」本店にも足を運んでみた。
ブラジルではマラクジャと呼ばれ、ジュースの定番フルーツとして人気がある。ブラジルでは黄色い果実だったが、石垣では紫の果実。種類も様々あるようだ。
川平ファームではフルーツドリンクの質にこだわりを持っているが、値段の高さが消費の足かせとなっていることも否めない。店主は「日本は品質の規制が厳しく果汁100%表示のハードルが高い。品質表示に厳しいお役所と、安さを求める消費者の間で苦しんでいる」と胸の内を語ってくれた。
短い滞在ではあったが、石垣や西表の観光産業は、島が好きな元気な移住者に支えられている感じを抱いた。古いものと新しいもの。それぞれの立場や言い分が違うため、時には対立することもあるだろう。だが対話を続けることで解決策も見つかり、よりよいアイデアも生まれるかもしれない。地方創生の可能性はまだまだ広がっていると感じた。
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